紫のドレスを揺らしながら、
女王は静かに玉座に座っていた。
誰にも媚びない。
誰にも従わない。
その視線ひとつで、空気が変わる。
最初は、ただ見惚れていただけだった。
近づける存在じゃない。
そう思っていたはずなのに――
気づけば僕は、
毎晩のように彼女の元へ足を運んでいた。
「また来たの?」
紫髪を指先でかき上げながら、女王は小さく笑う。
「本当に変わった人。」
見下ろすような視線。
けれど、その瞳はどこか優しい。
「普通の人なら、怖がって逃げるのに。」
静かな部屋。
重たいカーテン。
揺れる灯り。
彼女はゆっくり脚を組み直し、こちらを見つめる。
「ねぇ。」
「どうして、そんなに私を見つめるの?」
答えられないまま立ち尽くしていると、
女王はふっと微笑む。
「…困った人。」
その笑顔は、誰にでも向けるものじゃなかった。
「あなたの前だと、少し調子が狂うの。」
高圧的なはずなのに、
どこか寂しそうな声。
「みんな、‘女王様’を見ている。」
「でもあなたは…私を見ようとする。」
ゆっくりと玉座から立ち上がり、
彼女は静かに近づいてくる。
「そんな人、初めて。」
近すぎる距離。
紫の瞳が、真っ直ぐこちらを見つめる。
「だから今夜は――」
「女王じゃなく、一人の女としてここにいてもいい?」
誰にも見せない表情。
誰にも許さない距離。
その夜、女王は確かに、
僕だけに微笑んでいた。