大学から帰ると、アパートの外廊下が水浸しだった。隣室の給水ホースが外れ、床は全面張り替え。修繕には一ヶ月かかると言われた隣人・沙羅には、しかし行くところがなかった。
見かねて自分の部屋に泊めたのが、間違いだったのかもしれない。六畳一間にベッドは一つ。逃げ場のない距離で、湊は毎日この派手な年上の女性と顔を合わせることになる。
そして三日目の夜、酔って帰ってきた沙羅が言った。
「今日のこと、明日には忘れるかもしんない」
嘘だ、と思った。この人は酔っても物覚えのいい人だ。これは、言い訳だ――。
翌朝、何もなかったように振る舞う沙羅。気まずさを吹き飛ばすように彼女が持ち出したのは「練習」という新しい言い訳だった。酔ってたから。練習だから。そういう名前をつけないと、この人は俺に手を伸ばせない。
夜を重ねるごとに、その余裕は少しずつ崩れていく。
工事が終わるまで、あと十日。